すべての女性のための偏愛ミュージアム

わたしの偏愛ストーリー

似顔絵刺繍で紐解く。刺繍作家小菅くみさん流ハッピー論

SPECIAL 2017.9.8

「何かを偏愛する人の話は面白いーー」。「好き!」の熱量には説得力があり、「好き!」の裏側には、その人なりのストーリーがあります。そんなHOLICSのコンセプトを体現する人々をインタビューしていくシリーズ“わたしの偏愛ストーリー”。今回は、猫の表情を緻密に再現した刺繍で有名な、刺繍作家の小菅くみさん。大好きな“猫”と“刺繍”が紡ぐ、最高にゆるくてハッピーな偏愛ストーリーをお届けします。

“生粋の刺繍偏愛者”であり“真の猫偏愛者”

どんな性格の猫なのか伝わってくる愛らしい瞳。1本1本丁寧に縫われた毛。猫の可愛さを最大限に引き出した小菅さんの刺繍は、インスタグラムを通じて瞬く間に全国に広がり、“猫好き”の間で話題の存在に。「動物好き一家に生まれ、幼い頃からたくさんの動物に囲まれて育ちました。なので、例えば猫を縫うときも、毛並みのニュアンスだったり、目つきだったり、細かいディテールは分かるというか、手が知っているというか」。小菅さんを形成する“刺繍”と“猫”。その2つの“偏愛”について、HOLICSが深堀りします。

「欲しい人がきっといるから、ちゃんと価値をつけて売った方がいい」と言われ、考えが変わった

ーー刺繍を始めたきっかけは?

22歳のとき。病気をしたのがきっかけでした。ベッドの上でひとりでいても動けないしやることもない。本を読むのも何か違う。「よし、刺繍で何か作ろう!」と思い立ち、本格的に刺繍の作品作りを始めました。

ーー刺繍は、もともと趣味としてやっていた?

はい。以前に無印良品に勤めていたんですが、無印良品の服ってすごくシンプルじゃないですか。何かアクセントが欲しいなと思い、服に刺繍をして遊んだりしていました。

ーーそれはとても素敵なアイディアですね。

そしたら、周りの人たちから「私にもして欲しい!」という注文が予想以上に来て。その頃はまだ仕事にしていなかったので、もちろんお金はもらわずに、プレゼントしていました。

「右の、猫が猫をかぶっているしおりは、“猫をかぶる”ということわざをかけたもの。残りの2つはブローチで、オーダーではなく猫図鑑をみて縫ったもの。チャリティイベント「キャットパワー」と、ビームスジャパンの猫祭りに出品しました」

ーー刺繍は誰かに教わって?

いえ、完全に独学です。ただ、祖母が手先の器用な人で、刺繍はもちろん粘土で人形を作ったり、人形の洋服を縫ったり、あとは油絵も描いていたので、“ものづくり”というものが幼い頃から身近にありましたね。そんな祖母の姿をずっとそばで見ていたので、刺繍も自然と身についたというか。


ーー療養中、ベッドの上でどんな刺繍を?

今は猫や人物が主流ですが、その頃はお花が多かったですね。あまりにたくさんの作品ができたので、家族や友人たちにプレゼントしていました。

ーー当時はまだ趣味だったんですね。いつからそれが仕事に?

退院後、友人のギャラリーで猫の刺繍ブローチを販売したのがきっかけです。私が、お客さまからお金をもらう自信がないとその友人に話したら、「欲しい人がきっといるから、ちゃんと価値をつけて売った方がいい」と言われて。そしたら、本当にほとんど売れたんです。

ーーすごい! お客様の反応は?

当時は今ほど猫ブームでもなかったので、可愛い猫グッズがあまり出回っていなかったんですね。だからか、猫好きのお客さんがすごく喜んでくださっている姿をみて、めちゃくちゃ嬉しかったのを覚えています。

「あぁ、きっとものすごい好きなんだろうなぁ......」なんて思うと、丁寧に、大切に縫いたくなります

ーーその日から、刺繍作家としてのキャリアがスタートしたんですね。

そうなりますね。その後は、個人オーダーを受けたり、小さなギャラリーや雑貨屋に作品を置いてもらったり。あと、猫への“偏愛”を発信するクリエイター集団「Cat’s ISSUE」にも出品させていただくようになりました。

ーー個人オーダーとは?

お客さまのオーダーを受けて、飼い猫や飼い犬の刺繍ブローチを作っています。人間でいうと似顔絵みたいな感じですね。写真を送ってもらうのですが、見た目の特徴はもちろん、性格も教えてもらいます。例えば、すごい気の強い性格の子は、目つきをなんとなくキツめにしたり。そうすることで、より似せることができるので。

ーー特徴や性格を聞いていると、飼い主の愛情がとても伝わってきそうですね。

そうなんです。「あぁ、きっとものすごい好きなんだろうなぁ......」なんて思うと、丁寧に、大切に縫いたくなります。後日、お客さまから「あのブローチ、どこへ行くのにもつけています!」なんて連絡をもらうこともあって。イベントなどでもお客さまが喜んでくださるのがいちばんうれしい。そしてなによりやる気に繋がります。

刺繍糸は、DMCとオリンパスを愛用。

ーーオーダーで難しい猫は?

サビ猫ですね(笑)。使う色もすごく多いし、何より柄がすごく複雑なので。あと、黒猫も。鼻も口も黒なので表情を表現するのがすごく難しいんです。そういえば、以前送ってもらった写真の猫がすべてピンボケしていたんです。たまにあるんですよ、肝心な猫が見切れていたり(笑)。そういうときは、想像して縫うこともありますね。

ーーオーダーするにはどうすれば?

東京糸井重里事務所の「ほぼ日」だったり、Cat’s ISSUE だったり、私のツイッター(@kumidesuyone)やインスタグラム(@kumikosuge)で数名募集したり、そのときによって受け付け場所が変わります。次のオーダーの受け付けは今のところ未定です。

家に飾ったときハッピーな気持ちになり、ずっと眺めていたいと思えるかどうか

今回、HOLICSのために作ってくださった、エリザベス女王と愛犬のコーギー

ーー小菅さんといえば、動物を抱いた著名人の作品も有名ですよね。動物を抱いている意味は?

ただ人物だけを縫うより、何か動物を抱いている方がおもしろいし、可愛く見えるなと思って。

ーー今回、HOLICSのために作ってくださったエリザベス女王。コーギーを抱いた優しげな表情がすごく素敵です!

ありがとうございます。エリザベス女王といえば、コーギーマニアとして有名ですよね。多いときで13頭も飼っていたとか。

ただ、愛犬を抱いたエリザベス女王の写真を探してみたんですが、どれも横顔かカメラを意識した表情ばかりで、自然なものがなかったんです。なので、その両方の写真を見ながら、「愛犬を抱いているときって、きっとこんな表情をしているんだろうな」と想像しながら縫いました。

ーー人選は何を基準に?

家に飾ったとき、ハッピーな気持ちになるか、ずっと眺めていたいと思えるかどうか、でしょうか。あと、見ていて“可愛らしいな”と微笑ましくなるような方だったり。

ーー次に縫ってみたい人は誰ですか?

実は、ある友人に、イルカを抱いたラッセンを縫いたいんだよねと話したら、彼女が「じゃあラッセンと玉置浩二が一緒にイルカを抱いているのを縫おうよ!」って(笑)。そんな話を友人としながら、私が本当にやりたいのは、こういうことかもしれないなと。洗練されたおしゃれさみたいなものは全く不要で、こういうシュールで面白みのあるものをもっとたくさん作っていきたいです。

お客さまに喜んでもらえるかな〜っとひとり思いを馳せる瞬間、幸せな気持ちになります

左・「鉛筆で描いた下絵をなぞるときに使うコピックというメーカーのカラーマーカー。0.03と0.3、0.05を使い分けてます。もし廃盤になってしまったら本当に困るほど、これがないと描けません」

右・「刺繍に欠かせない3大アイテムです。10年以上使っているししゅう枠と糸切りバサミ。母にもらった針刺しも6年くらい愛用しています」

ーーずばり、刺繍の魅力は?

何でしょう。ただ糸と針だけで、自分の好きな絵が何でも描けるところでしょうか。あと、友人と喫茶店でお茶しながらでも、テレビを見ながらでも、煮物をしながらでもできちゃうところ。あと、“手縫い”というところにもこだわりを持ってやっています。

ーー最近は機械刺繍が増えていますよね。

機械刺繍だと安価で作品を大量に作れるので、勧められることもよくあるんです。動物の写真をプリンターに読み込むだけで、それが自動的に刺繍された状態で出てくる。確かにすごく便利で魅力的ではあります。

ーー機械と手刺繍では、具体的にどう変わってきますか?

動物の場合は、毛並みが全然違いますよね。あと、細かい表情までは機械だと作れないので、私のテーマでもある“似せる”という部分では不向きかと。あと、手刺繍の方が断然温かみを感じます。

ーー刺繍をしていて楽しいと感じる瞬間は?

完成したとき、お客さまに喜んでもらえるかな〜っとひとり思いを馳せる瞬間、幸せな気持ちになります。この瞬間ががあるから、ずっと続けていられるんだと思います。

ーー幼い頃から現在まで、刺繍から離れたことは?

一度もないですね。飽きたこともありませんし、これからも飽きることはないと思います。“ながら”でできるこの作業がすごく性格に合っていて、何より好きなんですよね。

“好き”をただ自由に、素直にのんびり楽しんでいる心地よさが伝わってきました

猫偏愛者の編集Oが以前よりずっとお会いしたかった小菅さん。インスタグラムで拝見していたイメージ通り、とても柔らかい人柄で、気ままな猫のような可愛らしい方でした。そう、いわゆるガツガツとしたハングリー精神のようなものがいい意味でなく、“好き”をただ自由に、素直に、のんびり楽しんでいるというか。そんなマインドが伝染したのか、お話しているとなんだかとても心地よかったです。いつか愛猫の刺繍をお願いするのが夢です!

小菅くみ 刺繍作家

動物好き一家に生まれ、たくさんの犬猫に囲まれて育つ。現在は2匹の猫と暮らしている。猫の刺繍ブローチをギャラリーで販売したのをきっかけに、刺繍作家の道へ。現在は、飼い猫、飼い犬の刺繍ブローチの製作や猫への“偏愛”を発信するクリエイター集団「Cat’s ISSUE」や、その他数々のギャラリーやイベントなどで作品を販売。

撮影/田中祐介

HOLICS編集部

この記事のキーワード

これいいと思ったらシェアしよう

HOLICS公式Facebookページ

RECOMMENDHOLICS編集部からのおすすめ

ACCESS RANKINGアクセスランキング

SPECIALスペシャル

TOTALすべての記事